尺八って、その人の持つ人間味が丸ごと現れる総合芸術だと思うんです
オリジナル作品について聞かせてください
これまでに、アルバム2枚、シングル1枚を発表しました。
デビューアルバムを制作したきっかけはコンサートです。30歳になったら故郷の愛知県西尾市の一番大きなホールで凱旋コンサートをやるのが目標だったんですが、「オリジナル曲のアルバムが無いとサマにならないな」と思いまして。
このデビューアルバムは凱旋コンサートありきの企画だったので、地元に思いを馳せながらノスタルジックなテーマで作りました。
タイトルもずばり『Nostalgia』です。
2018年に発表したセカンドアルバム『八∞縁』(ヤエン インフィニティ)は、才能豊かなアーティストKOHKIくんをプロデューサーに迎え、1ヶ月くらいで集中して作りました。
演奏旅行先のカラオケボックスなどで僕がメロディを作曲し、KOHKIくんにコードを付けてもらいました。なので、“僕の曲”というよりはKOHKIくんとの合作の感覚です。
(編集注:SOUNDCLOUDにて、全曲ダイジェストを聴くことができます)
メロディとコードを分担するというのは、ちょっと珍しい作り方ではないですか?
尺八はメロディを奏でる楽器なので、僕にとってはそんなに違和感が無いんですが、確かにそうかもしれませんね。
でもKOHKIくんにコードを任せることで、「こんなコードが付くの?」という新鮮な驚きがありました。尺八で作ると、どうしても同じようなキーの曲ばかりになりがちなんですが、KOHKIくんの思いがけないコードのおかげでちゃんと印象が変わるんです。
KOHKIくんと共作したことで、自分の中に無いテイストの作品、深遠な世界を作ることができたと思っています。
このアルバムはCDジャケットもすばらしいんですよ。
作詞家としても有名なティム・ジェンセンさんに撮影してもらったアートワークにも注目していただきたいです。
『八∞縁』を聴くと、良い意味で尺八のイメージを裏切られます。ちょっと民族音楽っぽい楽曲もありますね
ありがとうございます。そうなんです、全体的にケルティッシュなイメージにまとまってます。ケルト音楽には笛が使われることが多いので、そもそも親和性があるんですよ。
激しさのあるアップテンポの曲が良いと言ってくださる方もいらっしゃいます。
テンポといえば、アルバム完成後に「もっと上げれば(速くすれば)よかった」と思ったんですが、日によって「あれ? やっぱりこれでよかったのかな」と思うこともあったりして。体調や気分次第で、ピッタリくるテンポが変わるんです。テンポって不思議ですね。
テンポだけじゃなく、作っているときにはベストを尽くしたつもりでも、落ち着いて聴き直したら「ああすればよかった」と課題がたくさん見えてきます。やり直すわけにはいかないので、次に生かしたいと思ってます。
大河内さんが特におすすめの楽曲はありますか?
おすすめということではないんですが、『Interlude』という曲がありまして、実はこれレコーディングの最後に即興で録ったんです。3テイクくらいだったかな。伴奏なしの“ど・ソロ”なので、尺八単体の良さが伝わると思います。
ちょっと思ったんですが、ルーパーを使って「ひとり多重録音」なんていかがでしょう?
あっ、ルーパーを使う和楽器奏者って実は結構いるんですよ。三味線で重ね弾きする人とか。
僕はまだ取り組んでいないジャンルですが、興味あります。遊び心も必要ですよね。
今後やってみたいことは?
演奏活動については、お話をいただいたら何でも積極的にやっていきたいです。
その一方、オリジナルの楽曲制作にも重きを置きたいと思ってます。CD制作だけでなく、限られたシチュエーションや、特定の映像のための楽曲を作りたいですね。
たとえばイベントなどで、その瞬間、その場にいるお客さんのための楽曲を作ってみたい。スポーツの試合での選手の入場曲制作などもチャレンジしたいです。
演奏者としてだけでなく、作家としての思いも強いんですね
自分のことを「作家」だなんて、とても言えません。ただ、旋律を吹く者として“自分のメロディ”を作っていきたいと思ってます。作曲に対して無知だからこそ、「こんなメロディを吹きたい」という情熱だけでシンプルに形にできるんでしょうね(笑)
演奏者としては、今は体の響かせ方の意識を変えようとしているところです。
尺八って、その人の持つ人間味が丸ごと現れる総合芸術だと思うんです。今はまだやりたいことがたくさんありますが、いずれ年を重ねたときに、ピンスポ一本で吹けるような尺八奏者になるのが目標です。
Rico’s Eye

友人のミュージシャンのステージに大河内さんがゲスト出演したのをきっかけに、大河内さんを知りました。いかにも現代的なビジュアルに尺八がミスマッチなようでいてしっくりくる、不思議な雰囲気をお持ちの方、というのが第一印象です。今回じっくりとお話を伺って、大河内さんの音楽への真摯な向き合い方、楽器への深い愛情を知ることができました。なるほど、こういうマインドをお持ちの方だから尺八を吹く姿に説得力があるのですね。
またライブ行きます!
インタビュー/編集 千貫りこ
Photography by Yoko Daikyu