僕は、尺八奏者はボーカリストだと思ってます
ライブなどで、さまざまな楽器とコラボレーションしてらっしゃいますが
和楽器以外の楽器とご一緒させてもらうと、(演奏に対する)アプローチが変わるのが楽しいですね。
たとえば金管楽器と一緒に演奏するときには金管楽器の音に負けないようなテンション感が求められますし、ピアノと一緒のときにはあえて鍵盤に無いピッチの音を重ねてみたり。僕にとってのコラボは、“探求”です。
となると、ライブのたびにチャレンジしたり試行錯誤しなきゃいけないので大変ですね
そうですね、正直なところ「今回のアプローチは失敗したかな」と感じることもあります。お客さんに声がけいただいて、自分では気づかなかった新たな課題が見えることもあります。
ただ、いまは「一緒にやろうよ」と言ってもらえたらどこでも飛び込んでいきたいと思っています。
一方で、「(演奏活動を)詰め込み過ぎちゃいけないな」とも思ってます。演奏活動が続くと、これは自分の幼さのせいなんですが、体だけでなく心も疲れてしまうんですよね。
厳しい状態でステージに立たざるを得なくて、お客さんや共演者からパワーをいただいて何とか乗り切ったことが何度かあります。
詰め込み過ぎからくる“飽き”も怖いですね。こういう仕事をしている人で、死ぬまで走り続けられる人って一握りだと思うので、僕も上手にバランスを取っていきたいです。
尺八って、かなり大きな音が出ますよね。練習はどうされてるんですか?
移動も多いので、練習はイメージトレーニング中心です。飛行機や新幹線で、頭の中で歌いながら指を動かしてます。
もちろん実際に吹くのがベストなので、出先でスタジオを借りて音を出すこともありますが……現実的にはなかなか難しくて。
イメトレが成立するのは、尺八がメロディを歌う楽器だからでしょうね。僕は、尺八奏者はボーカリストだと思ってます。
ライブで歌ものを演奏させていただくこともありますが、当然ながら尺八で詞を伝えることはできないので、尺八の音色だけで想いを伝えるにはどうしたらいいか考えます。
たとえば中島美嘉さんが歌う『雪の華』はとても魅力的ですが、だからといって尺八で中島さんの しっとりした歌い方をなぞるのは、僕はちょっと違うと思うんです。
逆に、歌い倒した方が、あの楽曲が持つ感動が伝わる気がするんですよね。
尺八奏者はソリスト的な面が強いように思うのですが、尺八のアンサンブルにも挑戦されてますよね
はい、2019年に尺八奏者4人で「GMQ」というユニットを結成しました。
11月に「北とぴあ国際音楽祭2019」の一環としてデビューコンサートを開催しましたが、ステージに上がったら客席にりこさんが見えたのでビックリしました! 良い席に座ってましたよね(笑)
プレイガイドの一般枠で取ったチケットだったんですが……運が良かったです(笑)
実は開演前は「寝ちゃうかも」と不安だったんですが、とってもエキサイティングなコンサートで最後まで楽しめました
あの会場は音楽専用のホールではないのでPA(Public Address:音響機器)を入れるか悩んだんですが、「いさぎよく尺八の生音を聞いてもらおう」ということで、あえてPAは入れなかったんです。結果的にお客さまが集中して聴いてくださることになって良かったです。
セットリストも、王道の楽曲から洋楽、日本のポップスや合唱曲まで取り入れたりして、尺八の演奏を聴くのが初めての方にも楽しんでもらえるよう工夫しました。
個性豊かなメンバーでそれぞれに得意分野があるので、そちらも注目していただけると面白いと思います。
たしかに。個人的には岩田卓也さんが印象的でした
パワフルな演奏ですごい迫力だったでしょう。岩田さんは、僕が上京を考えるきっかけになった人なんです。
尊敬する人と一緒に演奏できて光栄です。
他のメンバーの演奏を聴いて刺激を受けたりしますか?
無いものねだりかもしれませんが、肺活量が桁違いなメンバーと自分を較べてちょっとヘコんだりすることもあります。ある程度は体格が影響する部分もありますが、こればっかりは頑張るしかないですね。
僕の演奏はおとなしい印象を持たれがちなので、時にはアクセルをめいっぱい踏みこんだような演奏もできるようになりたいです。
アンサンブルならではの難しさはありますか?
尺八はピアノと違って音程が無限なので、もしルートの人が“違う”音を出したらそれに合わせないといけないところでしょうか。
出だしは良くても、気持ちが高揚するにつれてシャープしていく(上ずる)こともありますしね。誰かと議論していて白熱すると声が高くなるのと同じで。
聴いている人に違和感を抱かせないよう、ルートの音を出している人に合わせて他のパートも音程を微調整することになるんですが、頭で思った音をそのまま出すには当然それなりの技術が求められます。
ひとりで活動していると自分の中だけで完結してしまうけど、他の人と共演することでいろんな気づきがあるし、技術面での課題も見えてきます。勉強になりますね。
インタビュー/編集 千貫りこ
Photography by Yoko Daikyu