思うようにコントロールできなくて、でも、それが面白くてのめりこみました。
丸の内のオフィス街にあるビルの10F、カジュアルなアウターをおしゃれに着こなして颯爽と現れた大河内さん。この人が和楽器奏者だなんて、誰も思わないだろうなあ……。
見晴らしの良いラウンジスペースにて、インタビュースタートです!
何がきっかけで尺八を学ぶことになったんですか?
実は母親がお箏の先生だったので、お箏や三味線が身近にある環境で育ったんです。
僕自身も音楽は好きで、小学校のマーチングバンドでトロンボーンを担当して地域のイベントに出演したこともありますし、高校時代はバンドを組んでボーカルをやってました。ただ、和楽器には全く興味がなくて(笑)
19歳くらいの頃に「楽器をやりたいな」と思いまして、たまたま家で見つけた塩化ビニール製の尺八を何気なく吹いたところ、すんなり音が出たんです。持ち主である母はうまく音が出せなかったそうで、「もしかしたらセンスがあるかもしれないから、ちゃんと学んでみたら?」と言われて先生のもとへ通い始めました。
実際に習ってみて、どうでしたか?
まずレッスン初日、「こんなにエモーショナルな音を出す楽器なのか」と驚いた記憶があります。先生が吹いた音で窓がビリビリ鳴ったのにもビックリしました。尺八という楽器の可能性を感じましたね。
で、いざ習い始めたらこれが難しいんです(笑)
ぜんぜん思うようにコントロールできなくて、でも、それが面白くてのめりこみました。
バイトして稼いだお金をすべて、尺八の音源や楽譜につぎこみましたね。コンサートがあると聞けばかならずチケットを取って聴きに行ったものです。
僕が師事していた牧原一路先生は「流派を超えて、いずれ尺八そのものが求められる時代がくる」という考えをお持ちの方なんです。だから流派にこだわらない楽譜の読み方も教えていただきました。
えっ、ちょっと待ってください! 同じ尺八なのに流派によって楽譜が違うんですか?
そう、違うんです。 尺八の流派には、大きく分けて「琴古流(きんこりゅう)」と「都山流(とざんりゅう)」の2つがあります。トラディショナルなルーツを持った「琴古流」に対し、「都山流」は尺八を一般に普及させる目的で広まった流派なんですね。
だから、「都山流」の楽譜の方が読みやすい。たとえば「都山流」の楽譜には小節線があるので、趣味で始めた人もとっつきやすいと思いますよ。楽譜には、テンポとか、クレッシェンド・デクレッシェンドなども指定されてます。五線譜の読み方を知っていれば比較的簡単に読めるんじゃないでしょうか。
尺八では、指使いの型に対してそれぞれ「ロ」「ツ」「レ」「チ」「ハ」と名前が割り当てられていて、楽譜にも「ロ・ツ・レ・チ・ハ」が書かれています。ピアノなどでキーを変えて演奏するには楽譜を変えなきゃいけませんが、尺八は同じ楽譜でも楽器を持ち替えるだけで自然とキーが変わるので、そこは楽ですね。
特定の流派に属さないことでデメリットはあるのでしょうか?
うーん、多少のアウトロー感はあるかな……。でも、そのおかげで流派や出身大学を越えたコラボレーションに参加できている面もあります。流派を気にせず声がけしてもらえるのはありがたいですね。
ちょっと話がずれますが、僕は音楽事務所も専属契約していません。
たとえば2018年に出演させてもらったレコード大賞のような大きな仕事は大手の事務所さんに間に入っていただかないと実現できませんが、今は直接オファーをいただける状態を作っておくメリットの方が大きいと考えています。
セルフマネジメントは大変だけど、だからこそ思いがけないチャンスにめぐりあえるんですよね。
牧原先生の元を離れて上京し、桐朋学園を卒業されたあとは?
桐朋でひととおりの勉強を終えたあと、「NHK邦楽技能者育成会」で学びました。 ここで全国から集まった和楽器奏者を目指す仲間と出会えたことは、今の自分にとって大きな財産になっています。
尺八奏者って、大学のサークル出身の人も結構多いんです。尺八が好きで好きで仕方ない人がプロになるみたいな感じですね。でも純粋に好きなのと、プロとしてやっていけるのとは別問題なんです。
「NHK邦楽技能者育成会」は、残念ながら僕らが最後の代で終わってしまったんですが、大学卒業後にあのワンクッションがあったことは自分にとって大きかったと感じています。
インタビュー/編集 千貫りこ
Photography by Yoko Daikyu