1分でも5分でもいいから、自分の体に意識を集中してみてください
マッサージの仕事をされている方から聞いたのですが、身体に触れることで相手の“気分”みたいなものを受け取ってしまうことがあるとか。
そういったことはゼロではないです。ただ、このお仕事に限った特殊なことではなくて、たとえば怒っている人と同じ空間にいるとソワソワして居心地が悪いですよね。そういうのと同じだと思います。
大きな悩みを抱えて来られた方の身体を触っていて、勝手に涙が出てくるようなことはありますね。胸が詰まるような気がしたり、いろいろです。強く感じたときはお伝えすることもありますが、わざわざこちらから言わなくても、ご本人が気づくことがほとんどです。施術後に「感情的なわだかまりに気がつきました」とか「もう済んだと思っていたことが心に残ってたみたい」と言われたりすることもあります。
うーん、精神的にも大変なお仕事なんですね。疲れませんか?
自分も含め、みんないろいろなときがありますから。
身体に触れる以上、互いに影響しあうのは自然なことでしょうね。以前は、施術後に起きていられなくてパタリと眠ってしまったり、腰が抜けたようになることもありましたけど、逆に言えば、自分もみなさんに影響を与える可能性があるわけですよね。そういう意味でも、自己管理はとても大事だと思ってます。
あと、受け取るものがたとえ一般的に“負”といわれるようなものだったとしても、「もらいたくない」「もらわないように注意しなきゃ」と構えるのは違うと感じています。
私もまだまだ勉強中ですが、もし「グッタリしたな」と感じたら、それをしかるべき“循環”に乗せればいいのだと考えています。むやみに怖がったり見て見ぬふりをしても始まらないというか。実際に起こっていることを淡々とつないで、本来の流れに戻すだけのこと。本来流れているものなんだから、あえて止めない、せき止めない。そうあるべきだからそうするだけ……そんな風に考えています。
自分の身体の声を聞くようにしていれば、必要以上に気にすることはないと思います。自分の身体を意識していれば、不要なものが入ってきたらちゃんと感じるので、その都度きちんと循環させればいいんです。
……この話、言葉にするのはなかなか難しいですね(笑)
いえいえ、とても興味深く聞かせていただきました。ではここで話題を変えましょうか。前回「自分ケア」というワードが出ましたが、自分でできるケアってどんなことですか?
1日に、1分でも5分でもいいから、自分の体に意識を集中してみてください。
テレビなどの音をすべて消して、目を閉じた状態で、自分の体のどこに力が入っているのか探ってみてほしいんです。かならず、どこかギュッと緊張しているはずです。たとえベッドに横になっていても、固くなっている場所があると思います。
もし緊張している箇所が見つかったら、意識してゆるめてみてください。そうすると、今度は別の場所の緊張に気づくと思います。そしたらそこをゆるめる。
そうやって連鎖的に意識を流していくことで、全身が心地よい状態になるはずです。これだけでも十分なケアになります。
そういえば、ヨガの「死体のポーズ」(全身の力を抜いて横になる)をやるとあっという間に寝られますね。あんな感じでしょうか?
そうそう。そんな風にちょっと意識を変えるだけで、身体は大きく変わるんですよ。特別な場所で特別なことをしなくてもいいんです。日々の疲れを毎日こまかくリセットしていくことが一番大切ですね。
リセットするときにアロマを利用してもらうと、もっと効果が出ると思います。
どんなアロマを利用するといいんでしょうか?
こんな時にはこれがいい、という大まかなセオリーはもちろんありますが、本来は人によって適したアロマは異なると思います。
私は、アロマは“体の声を聞くためのツール”として使えると考えています。
数種類の香りを手元に置いておいて、「今日はどのアロマをかぐと気分が良いかな?」と試してみるとおもしろいですよ。体調などが影響するので、日によって気に入る香りが違うはずです。
このサロンでも施術前にいくつかの香りをかいでもらうのですが、何種類試しても「ピンと来ない」という人もいらっしゃいます。でもそれでもいいんです! まずは微妙な感覚に耳を澄ませ、その感覚を最優先することが大切だと思います。
アロマには、「リラックス系」と「活性させる系」という大きなくくりがあります。
でも、一般的に「リラックス系」とされているラベンダーで覚醒する人もいるし、「活性させる系」とされるペパーミントの香りでぐっすり眠れる人もいる。本に書いてあるからと決めつけずに、実際にお店に行って色々嗅いでみて、タイプの違うものを3つくらい揃えておくと楽しいと思います。
香りって、それだけでパワーがありますよね。でもアロマトリートメントにおいては、やはり施術者の手の温かさがもたらす効果が大きいと思います。
そうですね。そういう意味では、一番いいのは家族や身近な人に触ってもらうことですね。私がやるよりいいんですよ。技術とか、やり方なんて関係ないんです。親しい人が、「この人を楽にしてあげたい」という気持ちで優しく触ってくれれば、それだけで大きな効果があると思います。
現代の人はプレッシャーやストレスに囲まれているせいか、自分を守る為につい他者をシャットアウトしがちな気がします。でも、ときには心を開いたり、他者を受け入れる感性を忘れないようにしていると、そこからまた新しい循環が始まると思います。
最後に、この記事を読んでいる方にメッセージはありますか?
これまでの話とは違ってしまうんですが、これから何かを目指そうと思ってる方に「自分の素質を決めつけて可能性を狭めないで!」と伝えたいです。
私の手は小さくて薄くて、マッサージ向きではないんですね。アロマの勉強をスタートしたころは、ふっくらした手を持つ人と自分を比べて「自分には素質が無いな」とガッカリしたものです。でも経験を重ねるうちに「素質ってそもそもなんだろう? それがあったから、無かったから、何が違うんだろう? 足りないところや苦手なところは、他の要素でカバーすればいいんだ」と考えるようになりました。
今はまだ無理ですが、もしいずれ若い人を雇うことになったら、まっ先にそれを伝えたいと思ってます。
私も今では、「見た目からは想像できないしっかりした手を感じる」と言っていただけるようになりました。すでにできあがっている常識や価値観にしばられて、何かと条件を引っ張り出しては「自分はここまでしかなれない」「できない」って決めつけずに、まずはやってみてほしい。そして続けてみてほしいです!
自分がやりたいことが見えていれば、努力で夢に近づくのは可能だと思います。諦めずにがんばっていただきたいです。
Rico’s Eye
まろやかで優しい本人のお人柄と、都心でサロンを営む経営者のイメージが結びつかず、興味津々でインタビューをスタートしましたが、お話を聞くうちに「どちらも岩﨑さんなのだなあ」と納得しました。
人を元気づけたい、よろこばせたい、励ましたい、というポジティブな願いが言葉の端々にあふれていて、その思いの強さが岩﨑さんのバイタリティあふれる活動を支えているのですね。
インタビュー終了後、心がほっこりとあたたかくなりました。岩﨑さんは、施術以外でも気持ちをほぐす技をお持ちのようです。
インタビュー/編集 千貫りこ
Photography by Yusuke Mitome