岩﨑直代さん

私にできるのは、自分ケアの「やる気スイッチ」を探すこと

前回「病院でのアロマ活動」というお話がありましたが、どんな活動なんですか?

ここ数年、腫瘍内科等いくつかの病院で患者さんのケアのお手伝いをしてきました。みなさん前向きに治療に取り組んでいるので、ほんの少しですが、その後押しをさせてもらってます。

具体的には、施術の間だけでも痛みをとったり、リラックスしていただく……といった内容です。でもどちらかというと、精神的なケアの意味合いが強いかもしれません。患者さんは精神的にも負担が大きく、心身共に常に緊張状態にある方も多いんです。肉体が緩むと心も緩むので、施術中にその辛さや、まったく関係ないこともですけど、言葉にして吐き出してくれるのがうれしいですね。

特定の疾患の方に使っちゃいけないアロマとかって、あるんですか?

ありますね。学校で教わります。
でもアロマの世界はまだまだ新しいので、情報は日々変化してます。以前は「ダメ」と言われていたものが、いつの間にか「よし」となったり、その逆もあります。だから教科書の情報だけを信じるのではなく、患者さんの“生”としっかり向き合って、その人を尊重して用心深く精油を選ぶようにしています。

予防医療にも力を入れていらっしゃるそうですが。

予防医療を理想にかかげる熱意のあるドクターに出会い、アロマをとおして関わらせていただきました。
予防医療というのは、人が“本来の状態”をうまく調和して保ち、病気になるのを未然に食い止めるための医療です。でも今のところ、病院は「病気になってから行く場所」であって、こうした考え方はまだまだ一般的ではないですよね。
自分としてはやりたい分野だったので数年かけてトライしてきたんですが、実際動き出すと、病院という枠の中で一緒にやらせていただくのは想像以上に難しい面もあるなあ、と感じました。

西洋医学においてはエビデンス(病気・怪我・症状に対して、効果があることを示す証拠や検証結果・臨床結果)が重要視されますから、おのずと“この精油のこの成分が、この症状に効く”といった考え方を求められます。もちろんこれが大前提であることは間違いないのですが、その一方で、個の成分だけが良い作用をするわけじゃない、という考え方もあります。

アロマの元になっている植物自身だって、特定の成分ではなく、いろんな要素が複合して生きていますよね。アロマにおいては、“この精油のこの成分が”というポイントだけにとらわれると、植物のエッセンスを使わせてもらうことの本質を見逃してしまうように思うんです。

ここ数年、病院でアロマをする機会をいただいて「そもそも西洋医学とアロマを比べたり、同じ土俵に乗せようとするのはナンセンス」だと気づきました。それぞれ別の種類のもので、違う役割があると分かっていたはずなのに、実際にやってみないと理解できなかったんですね。同じ枠にはめ込んでやろうとすると、それぞれの良さを打ち消し合ってしまうこともある、と思うようになりました。

予防医療そのものは、とても魅力的に見えるんですが……。

人間も植物と同じで、あちこちの部位や臓器が連携しあっています。心も含めたその人全体の“ハーモニー”が大切だと思うんです。
病気っていうのは、その人本来のバランスが崩れたときに起こると考えてます。そして、“ハーモニー”を美しく保つには、その人自身の日々の心がけが一番大事なのかもしれません。誰かに何かをやってもらうのではなく、“自分が自分の体をコントロールする意識”を持つことが予防医療につながると思います。

ちょっと話が変わりますが、震災後の大船渡で何度かアロマを使った講座をさせていただきました。参加された方に自分の好きな香りを選んでもらって、その香りのクリームを手作りして持ち帰っていただくお手伝いをしてたんですが、ある男性に言われたことがとても印象的に残ってます。
その方は、「お医者さんはもちろん必要なんだよ。でもさ、自分が変わるわけじゃないから、また同じ事を繰り返すんだよ。また同じところが痛くなる。だけどアロマはいいね、自分で塗ってると性格まで変わってくような気がするんだよね。だから繰り返さなくなる。アロマは効くねえ」とおっしゃったんです。
細かい説明なんか何もしてないのに、そんなのいらないんだ、ちゃんと感じてくれてる。「すごいな、届いてるんだな」と思いました!

取り入れ方によっては、アロマは本当に力を発揮してくれます。たとえ科学的な実証が難しくても、実際に変わった方をこの目で見ているので、そこは確信を持っています。

アロマの力を信じてケアしてくれる岩﨑さん、心強いですね。このサロンがある品川の人がうらやましい。

あ、でも大事なのは自分自身です!
私にできるのは、その人自身が持っている治癒力やエネルギーに手を貸すことだけだと思ってます。それでもつい、「治してやろう」「やってやろう」という感覚に陥りがちなので、そうならないよう常に気をつけています。
サロンのインテリアも、できるだけ主張をなくすよう心がけているんですよ。誰が来ても「私の部屋」みたいに思ってもらいたいんです。できれば施術者の私の姿が見えないくらいがいいと思ってます。

岩﨑さんのマインドは、施術してもらったことがあるので何となく分かります。

施術者は自信を持っていないといけない。けど、すべてを分かった気になってはいけないと思うんです。
不思議なもので、「こうでしょ」と決めつけて施術すると、身体は貝のように閉ざされる。だから私はいつも、「こんな感じ?これはどう?」と聞きながら、細胞と対話するつもりで施術するよう心がけています。私がそういうスタンスでいると、お客さん自身が「どこも悪くないと思ってたけど、ここが弱ってたみたい」と気づくこともあります。私にできるのは、自分ケアの「やる気スイッチ」を探すことですね(笑)

リピーターさんは多いんですか?

うちはほとんどリピーターさんです。みなさん、継続してご利用いただいてます。
リピーターさんからは「嫁にいかれちゃ困る」と言われてますね(笑)
「やめないで」と言っていただくこともあって、とっても嬉しいです。でも、誰にとっても“一番の主治医は自分自身”ですから。これからもそのつもりで続けていこうと思ってます。

インタビュー/編集 千貫りこ

Photography by Yusuke Mitome

Profile

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岩﨑 直代(いわさき なおよ)>

IFPA認定アロマセラピスト。2007年、ホテルサロン勤務等を経て東京都港区品川に“アロマトリートメント岩﨑”をオープン。
サロンでの施術の他、都内及び静岡県内における病院での院内アロマ、NPO法人アロマ認定コース実技講師等としても活動中。それら活動の中で、アロマセラピーによるリラクセーションが健康にもたらす独自の役割があることを確信し、サロンでの施術に反映させている。

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