林真理子さん

願わくば、いつも“水”のようでありたいですね

林さんは、日常的に「心のうち」に向かい合っているせいか、感情に流されることが無いように見えます。イライラしたりしないんですか?

そういう時もありますよ。
ただ、イライラしたり、すごく悲しかったり苦しい時でも、心のどこかで「きっと、この感情がのちに財産となる」と信じているところがあります。イライラしたことのない人に、目の前でイライラしている人への共感はできないですよね。

イライラする感情そのものにはあんまり関心が無いですね。
人間ってそもそも、イライラする生き物だと思うんですよ。だから、そうした感情自体はけっこう受け流すようにしています。
どちらかというと、“イライラする感情を引き起こすもの”を味わうことに関心があります。

味わう? え、どういうことですか!?

感情を味わい尽くすというか……。
自分の中に「イライラする」みたいな特徴的な感情がわいたときには、その感情をえぐってえぐって掘り起こしていくんです。そうすると、自分の中の子どもっぽさや、ものすごく恥ずかしいものが見えてきたりして。

他人の感情で実験したり遊ぶわけにはいきませんが、自分の感情なら自由に扱えるので、思う存分えぐりきってその痛みを感じ取っておく。そうすると、他人に対して同じことをせずに済むんじゃないかな、と思ってます。
キャリアカウンセラーとしても、相手の感情をもっと大事に扱えるようになる気がするんです。

ははあ。ということは、逆に相手への攻撃にも使えますね。一番痛い場所が分かってるから、一撃必殺でやっつけられる。

あっ、そうですね。でも私は言葉を武器として使うことは絶対やらないです。
言葉の暴力って、殴る蹴るとはぜんぜん違う。致命傷を与えることになると思っています。
そんなことは、生涯やらずに終えたいですね。

思うのは自由なんですよ。心の中で何を考えてもいい。 でも、それを言うか言わないか、誰に言って誰に言わないか、どう表現するか、は吟味できますよね。

これまでのお話を通じて、林さんの、他者とのコミュニケーションに対する考えが確立されている印象を受けたのですが。

4年前にMBTI の講習を受けて認定ユーザーの資格を取ったんですが、これが、人の見方が変わる一つのきっかけになったかもしれません。
MBTIは、日本ではさほど知られていませんが、世界的には広く活用されている性格検査です。ユングが提唱したタイプ論をベースに開発された、性格をとらえる枠組みのようなものです。

講習の中ではMBTIのメソッドを使って自己分析をしたんですが、そこで人が日常的にやっている情報の取り入れ方や、結論の導き方にはクセのようなものがあること、無意識にやっているそれは人によってタイプが違うことを思い知りました。
自分のクセを知ったと同時に、自分と真逆のとらえ方で生きている人がいるのだと気づいて、おどろきましたね。

それまでも他者とのコミュニケーションには注意を払ってきましたが、この経験を通じて自分をより深く知ることで、自身の中をもっと細かく見えるようになりました。 そして、自分と異なる指向の人と会ったときの、対応とか分析においても視野が広がりました。

ご自分の感情に向き合うこと以外で、普段から心がけていることはありますか?

あまり物事にこだわらないようにしています。
願わくば、いつも“水”のようでありたいですね。本質がH2Oであることは変わらないんだけど、やわらかく、どんな形にもなれるのがいいなぁと。

どんな形にもなれる……それって、周りのためというより林さん自身のためですか?

はい、まさにそうです!
あらゆることを気にしないでいた方が自分が楽なんですよね。ストレスがたまらないです。
自分を楽にしたい……うん、たぶんそれが発端です。自分が楽であるために、どうしたらいいかな、と考え出したのがはじまりですね。

Rico’s Eye

林さんとは過去に何度かお会いして軽く言葉をかわしたことはあったのですが、ちゃんとお話しするのは今回が初めてでした。「とても繊細で賢い女性」という印象が強くて、インタビュー前には少々尻込みしていたのですが、お話が始まるとお茶目でかわいらしい方で(もちろん、繊細で賢い人ではあるのですが)ほっとしました。

林さんの優しいふんわりした雰囲気が心地良くてつい自分の話を続けてしまい、気づけば2時間ものロングインタビューに! 長時間おつきあいくださった林さん、ありがとうございました。
年始にとても良い刺激をいただきました。今年の目標が見えた気がします。次はサシで飲みましょう!

インタビュー/編集 千貫りこ

Photography by Yusuke Mitome

Profile

profile

林 真理子(はやし まりこ)>

1996年より一貫してクリエイティブ職のキャリア支援に従事。
デジタルハリウッドやエン・ジャパンを経て、2005年よりクリエイティブ職専門人材エージェンシー、株式会社イマジカデジタルスケープ所属。トレーニングディレクターとして、クライアントの社員研修やeラーニングの企画、カリキュラム設計、教材開発、講座運営、評価など、学習の場をデザインする。

日本キャリア開発協会認定CDA、日本MBTI協会認定MBTI認定ユーザー。
gihyo.jp不定期連載「Webクリエイティブ職の学び場研究」

ページトップへ