岩﨑直代さん

“触れられる”とか“ケアされる”感覚は、本当は誰もが常に必要としている

東京の都心、品川駅から徒歩数分の場所にある高層マンションの一室。夜ともなるとロマンチックな夜景が楽しめそうな、まさに“隠れ家サロン”。
今回のゲストは「アロマトリートメントサロン岩﨑」のオーナーであり施術者の岩﨑直代さんです。

今のお仕事は、学生のころから目指されていたんですか?

いえ、もともとは一般企業に勤めていました。
アロマに興味が向いたのは、自分が身体を壊したのがきっかけですね。15年くらい前のことですが、明らかに体調が悪くて病院に行ったんです。ところが、あちこち検査したのに問題は無くて……。それで漢方などいろいろな療法を試してみる中でアロマに出会いました。自分にはアロマが一番合ったんですね。

アロマトリートメントは、香りだけじゃないんです。人の手を使って施術するんですが、私にはこれが効果があったんだと思います。

私も岩﨑さんに施術してもらいましたが、気づいたときには寝てました。頭や顔を手で包まれると、なんともいえない安心感がありますね。

大人になると、人と触れ合う機会が減るんですよね。たとえば子育て期間中であれば、お子さんと濃密に接触する時間をたくさん過ごせます。でも子育ては誰もが経験するわけではないし、その期間が永遠に続くわけでもない。

年齢や性別に関わらず、“触れられる”とか“ケアされる”感覚は、本当は誰もが常に必要としているような気がします。子育て中のお母さんだって、時には自分が背中をさすられたりケアされる側になる時間も必要だと。
私は、アロマそのものはもちろんですが、“触ること”や“触られること”、つまり触感による作用に注目したんだと思います。

技術は学校に通って身につけたんですか?

90年代の終わりかけくらいに、第一次アロマブームがあったんです。私がアロマに出会ったのはちょうどその時期だったので、スクールも多くて。1年間スクールに通いました。でも最初は仕事にるすつもりはなくて、“自分や家族のための趣味の延長”といった感じでした。

では、いつ頃から仕事にしようと?

趣味が高じてきた段階で、うまく言えないんだけど「この技術を使って誰かの役に立ちたい」という気持ちが強くなってきたんです。
どんな仕事でも、間接的には必ず誰かの役に立ってるんです。でも私はとても単純な人間で、目の前のお客さまが喜ぶ顔をとにかく見たかったんですね。そうでないとエンジンかからないというか。
そういえば、学生時代からサービス業のアルバイトをやっていました。もともとそういうのが好きなんでしょうね(笑)

具体的に、どうやってアロマセラピストとしてのキャリアをスタートさせたんですか?

まずはホテルのサロン勤務からスタートしました。未経験で、しかも年齢がそこそこいってたので(笑)雇ってくれるところがあるのか心配でしたが、かなり運のいいことに条件に合う募集を見つけまして。アロマに定評のある憧れのホテルが、サロンをニューオープンするにあたってスタッフを募集していたんです。ありがたいことに実務未経験なのに雇ってくれて、しかも3ヶ月間しっかり研修してくれて。
ここでは、高いホスピタリティ……接客や空間作りの原点など、現在の土台となる大切な要素をいろいろ教えていただきました。

そちらで3年ほど勤めたあと、次は個人のサロンで2年くらい。計5年で独立しました。
え、早い? そうですね、通常は10年くらい経験を積んでから独立するのかもしれませんが、私の場合キャリアをスタートさせた年齢が遅かった。のんびりしていられなかったのは事実です。

かなりのハイペースで独立されたんですね! 経験が少ないまま独立して、不安はなかったですか?

これがね、なかったんです(笑)
ホテルのサロンに勤務していた頃、「年齢がいっているのに経験が少ない」と嘆く私に先輩が言ってくれた「気持ちの入らないやっつけ施術を100人にするより、たとえ数人でもひとつひとつ丁寧に集中して施術したほうがよほど力になる」という一言が胸に残っていたからかもしれません。確かに、だらだらと経験を積めばいいというわけではないんですよね。

いくつかの現場を経験して、理想とするサロンのあり方みたいなものが明確になりつつある時期だったので、ただただそれを実現したい、という思いに動かされてました。迷いはなかったです。

とはいえ、こんな都心でキレイなサロンを立ち上げるとなると準備資金も必要でしょうし……かなり勇気が要ったのでは?

そうですよねえ。今思うとよくやったなと思うんですが、最初は何も考えてなかったです(笑)
うん、立ち上げの時期は何もこわくなかったですねえ。トントンと話が進んだので「これは誰かが私に“やれ”と言っているんだろう」と信じて、それに乗っかった感じです。

最初の集客活動はどうされたんですか?

まったくゼロからのスタートでしたね。
費用は無い、やり方も分からない状態で、とりあえず駅前でビラを配ったり、知り合いにクチコミをお願いしたり。
人気のある宣伝媒体に広告を出すことも考えたんですが、最初は自分の力量に自信がなかったので、不特定多数の目にふれる場所に広告を出すのはちょっとはばかられました。
近場で宣伝しておけば、この辺り(品川)のOLさんにも来てもらえるんじゃないか、とも考えていましたね。

もくろみは当たりました?

ダメでしたー(笑)
サロンを立ち上げてしばらくしてからリーマンショックが起こったのもあって、客足はなかなか伸びませんでした。
確かに近隣のOLさんは足を運んでくれましたが、正社員から派遣へと雇用体系が変化する中で、おこづかいの配当先から真っ先に省かれる宿命なのがリラクセーション費用。私のサロンに限らず、どこも経営は厳しかったようです。

なるほど、最初はかなり大変だったんですね。だからというわけではないけど、岩﨑さんは出張も積極的にやられてるんですよね?

ええ、サロンで待っているだけでなく、外に出る仕事もどんどん受けました。試合前のラグビー選手とかゴルファーなど、アスリートへの出張施術もやらせていただきましたよ。
ラグビーは、「試合前にやると勝率がよくなるから」と呼んでもらっていたようです。リラックスして余分な力が抜けることで、勝負に集中できるんですね。ゴルファーの皆さんは、試合前の調整ラウンド後に疲れを取ることで、リラックスして試合にのぞんだり、集中力を高めてもらうのに効果的だったと思います。
プロの方の身体を触らせていただくのは気が引き締まりましたね。身体を触るときの圧力をはじめ、さまざまに感覚を研ぎ澄ませて取り組みました。

アロマは効果が分かりづらいし「なんとなく怪しい」と敬遠されがちなんですが、少し継続すると「そういえば風邪をひかなくなった」とか「原因不明のだるさや不調が無くなった」とか明らかな変化があるんです。だから安易に薬に頼るのではなく、“気持ちよく生活するためのサポート”のひとつとして多くの人に知って使ってもらいたいと思ってます。同じような考えでアロマの普及を推進しているNPO団体に仲だちしてもらって、いろいろな場所に出かけるチャンスをいただいています。

地道に活動の場を広げたり経験を積むことで、「若い施術者のための道を作らなくては」と思っています。自分が先輩方にしてもらっているように。

すばらしい。そしてすごい行動力。

自分から積極的に、というわけではないんですよ。タイミングだと思います。
先ほどお話しした活動の他に病院でのアロマ活動もしているんですが、「いつかそういう活動ををしてみたいな」と思っていたら「やってみないか」と声をかけていただくことが続いた時期があって。最初のうちは自信もないし、自分はまだ経験不足と思って断ってたんです。でも続くときは続くもので……「これは何かの縁かも」と思い、お誘いに乗って今にいたります。

「チャンスを見逃さない才能」というのもあると思います。

新しいことを始めるときって、周りから反対されることも多いんです。
でも、今思えば深く考え過ぎずにやってみてよかった。普段はかなり慎重派なのですが、“その時、その時の流れに乗る”というか。サロンの立ち上げから始まって全部そうですね。

インタビュー/編集 千貫りこ

Photography by Yusuke Mitome

Profile

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岩﨑 直代(いわさき なおよ)>

IFPA認定アロマセラピスト。2007年、ホテルサロン勤務等を経て東京都港区品川に“アロマトリートメント岩﨑”をオープン。
サロンでの施術の他、都内及び静岡県内における病院での院内アロマ、NPO法人アロマ認定コース実技講師等としても活動中。それら活動の中で、アロマセラピーによるリラクセーションが健康にもたらす独自の役割があることを確信し、サロンでの施術に反映させている。

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