長谷川恭久さん

勇気を出してメスを入れないと、いつまでも何も変わらないし、どんどん辛くなるだけ

講演活動、ものすごくたくさんやられてる印象なんですが。

そんなに多くないですよ。2013年に入ってからは、多いときでひと月に2、3本くらいかな。
最近は地方からのオファーが多いですね。2泊3日での連日講演などは、体力的にちょっときついね。他の仕事も抱えてるわけだし。物理的な移動がある分、気持ちの切替えも難しい。つかれますねえ(笑)

シナリオ設計やスライド作りなど、準備に時間がかかるわりには売上げにつながらないので、講演だけで生活するのは難しいです。セミナー参加費が数千円でも(参加者から)「高い」と言われることがあるので、話す側だけでなく運営側も大変だと思いますよ。

うんうん、私も時々そういう機会をいただくことがあるので、よく分かります。でもヤスヒサさんは講演の仕事を粛々と続けてらっしゃる。そのモチベーションはどこから来るんですか?

それはもう、「日本のWeb業界を盛り上げたい」という一心ですね。
僕は英語圏での情報も収集しているから、日本に入りづらい情報を発信・共有したいという思いもあります。僕の影響なんて微々たるものだろうけど、やらないよりいいだろう、と。

Web制作業界だけでなく、全く異業種の会社に呼ばれて、社内研修をやることもたまにあります。その業界の動向を調べて、Webをどんな風に活かすか、といった話をしたり。

異業種といえば、2012年に開催された「楽天トラベルサマーフォーラム2012」に登壇されましたよね。依頼主のニーズに合わせてしっかり下準備できる社内研修ならともかく、いつもと雰囲気の違う場所で、しかも大人数を前にしての講演となると、いろいろ苦労されたんじゃないですか?

制作に関わらない人の方が素直に話を聴いてくれるので、意外とやりやすい面もあるんですよ。他業種の人はある意味「ひたむき」。理由付けがしっかりして、あとは論理さえ通っていれば「とりあえず試してみよう」と勢いをもって取り組んでくれます。でも制作現場の人は「簡単に使えるの?」「はやるの?」「もうかるの?」といった思考が発生する。まずは気持ちを駆り立てるところから始めなきゃいけない。

ヤスヒサさんのお話は、特に複数人が登壇するセミナーで聴くとちょっと異質ですよね。概念的というか。聴き手が自分なりに咀嚼(そしゃく)しないといけない、という印象を受けます。

僕だって、以前はCSSのTIPSを延々と話すような講演もやっていたんですよ。
「CSS3の表現を、CSS3未対応のブラウザで実現しよう!」とかね(笑)

でも今は、そういう話をお金を出して聴く、ってことに危険性を感じてます。
なんだか受け身ですよね。僕自身は、「情報を整理して自分にストックする」作業は、プロならば日常的かつあたりまえにやるべき行為だと思うんだけど。

もっと言えば、参加費用が手頃なセミナーに参加して手軽なTIPSを手に入れて、それを使った「安い」Webサイトを製造する……という流れに疑問を感じていないことがとても危険。制作者自身が自分たちの価値を落としているように見えます。このサイクルから抜けないと、自分が満足できる生活スタイルを保ちつつ、楽しく仕事するのは不可能なんじゃないかと思う。
「制作費を安く叩かれるのがイヤ」と言う一方で、「無料のアプリじゃないとイヤ」とか「セミナーの参加費が高い」とか言うことに矛盾を感じますね。

あとね。
「お客さんが望んでるから、自分は反対だけど仕方ない」みたいな話をよく聞くけど、これは制作者が「専門家」の立場からWebの特性や活かし方について伝えることを放棄しているように見えます。長期的な視点でみた「ゴール」や「業務のあり方」について考えることを後回しにしてしまっているんじゃないか、と。

もちろん、とても難しいことを言っているのは分かってます。クライアントとの関係性や、ひいては社会構造が問題の根源になっている面もあるから、できれば避けてとおりたい部分ではあります。けど勇気を出してメスを入れないと、いつまでも何も変わらないし、どんどん辛くなるだけなんです。

身につけなきゃいけない「テクニック」は次々と変わるのに「仕事」の大変さは変わらない、いや、テクニックが変わるせいでむしろ負担が大きくなっていってるかもしれない。でも、構造やワークフローといった根本的なところを改善することで、解決できる問題もあると思うんです。

僕の講演の内容が概念的になりがちなのは、「根本的な部分に対する考え方や視点をちょっとだけ変えてみてほしい」という呼びかけが含まれているからでしょうね。

とはいえ、話す側の人間としては、本題の前に魅力的な話をしてみんなの注意を引きつけるといった努力は必要ですね。
僕のように概念的な話をする場合には、それをやらないと聴いてもらえないということは分かってるんだけど、なかなか実践できてないですねえ。この点についてはまだ改善の余地があると思っています。

ここ最近の、コンテンツを起点としたWeb制作の手法を紹介する講演の手応えはいかがですか?

セミナーに参加してくれた方からは良い反応をもらってますよ。それはとてもありがたいけど、僕以外の人がこういう話をほとんどしていない現状はどうなのかな、と思ってます。マーケティング系の人は実践しているように感じるけど、制作系の人は……。

「面白いコンテンツを作って、素敵に演出・装飾しましょう」という話はよく聞くんですが、じゃあ「コンテンツを整理・結合・削除するにあたってどうしたらいいのか」といった踏みこんだ話はあまり聞かない。僕の話を実践しようとすると、ワークフローそのものが大きく変化するし、コンテンツを作り込むためにかなりの工数をかけることになるので、もっと現場の人たちが自分自身のこととして考えなきゃいけないと思うんだけど。

そういうお話って、既存のワークフローを否定するような発言になりかねないと思うのですが、風当たりを感じることはないんですか?

そりゃ、たまにはありますよ。でも人それぞれ置かれている状況が違うので、批判が出るのは仕方ないと思ってます。
とはいえ、講演後のアンケートで低い評価をもらうと1日凹んでますけど(笑)

たまにエゴサーチすることもありますよ。でも2chとかは見ない。
見知らぬ人のブログなどで建設的な批評を見かけることもありますが、それは匿名・実名問わず参考にさせていただいています。

インタビュー/編集 千貫りこ

Photography by Yoko Daikyu

Profile

長谷川 恭久(はせがわ やすひさ)

デザインやコンサルティングを通じてWebの仕事に携わる活動家。
アメリカの大学にてビジュアルコミュニケーションを専攻後、マルチメディア関連の制作会社に在籍。日本に帰国後、数々の制作会社や企業とコラボレーションを続け、現在はフリーで活動。自身のブログとポッドキャストではWebとデザインをキーワードに情報発信をしているだけでなく、各地でWebに関するさまざまなトピックで講演を行ったり、多数の雑誌で執筆に携わる。

著書に『エクスペリエンス ポイント』『Web Designer 2.0』など。

http://www.yasuhisa.com/could

このエントリーをはてなブックマークに追加