須藤海芳子さん

アツいでしょ!? 教授も学生もみんな本気なの。ロックなの(笑)

前回の味覚教育のお話を聞いていて思ったのですが、大人向けのワインセミナーと子ども相手の味覚教育とでは、同じ“教える”でも、かなり勝手が違うのではないでしょうか?

そうですね。 味覚教育にかかわることで、「教育」について以前より深く考えるようになりました。ただ、いろいろ考えたり勉強しているうちに「どう教えたらいいか」ばかりに注目してることに違和感をおぼえるようにもなったんですね。「(私が)どう教えるか」だけではなく「(子どもたちが)どう学び取るか」の視点も大切なんじゃないか、と。
それと同時に「味覚について知ることで、子どもたちにどんな変化が起きているんだろう?」という問いが、以前より深くなったの。

そんなことを考えているうちに、自分がやっている「教える」という行為についてもっと勉強したい、論文を書きたい、という気持ちになってきたんです。
で、「大学に行くしかない」と思って。

えー! それはまた大胆な思いつきですね(笑)

私はいつも漠然としているの。でもやりたいことは決まってるんです。「ワインが好き」とか、ね。今回も同じです(笑)

それで、いろいろ調べていたら「学びを学ぶ」というテーマを掲げている大学院を見つけて「これだ!」と。
研究計画書を書いて、受験して。運良く入学できたんだけど、入学後はカルチャーショックの連続でしたよ。

カルチャーショック……たとえばどんなことでしょう?

うーん、そうですね……。
あのね、味覚教育で「味には、どんな味があるかな?」と問いかけると、子どもたちは「辛い」とう発話をします。でも実は「辛い」は、生理学では“味覚”ではなく“痛覚”とされているんです。だからといって、ここで「それは味じゃないんだよ」と返すことに抵抗があったの。

その話をしたら、ある教授から「じゃあ須藤さんはどう返しているの?」と聞かれました。「うまく返せなくて、いつも困ってるんです」と答えたら、「気持ちは分かるけど、教える立場の人間はまずきちんと宣言をした上でその責任を取らないとダメ」と言われたんですね。「まずは自分自身の中で『辛い』をどう定義するか決めてみたら?」と

それでちょっと悩んでから「たしかに生理学的には『辛い』は味じゃないけど、社会文化的に捉えれば『辛い』も味覚のひとつだと思います」と答えたら、教授いわく「須藤さんの中で、いま学びが起きましたね」と。
……アツいでしょ!? 教授も学生もみんな本気なの。ロックなの(笑)

「学ぶ」って、こういうことなのかもしれない。今の私は、まるで生まれ変わったような気分で「学びを学び」中なんです。

うわあ、いいお話ですねえ。では、当初の目的である論文執筆も順調ですか?

進めてますよー! かなり大変だけど(笑)
私の論文のテーマは「児童のためのより良い味覚教育の検討」なんですが、まずは児童対象に開催したワークショップの映像を見て会話を分析するところから始めてます。

映像の中で、リンゴジュースを飲んでもらって「どう思う?」と聞くと、「酸っぱい」と答える子と「おいしい」と答える子、そして「飛行機」と答える子がいます。「飛行機」の理由は、どうやら「飛行機に乗ったときに出たリンゴジュースみたいな味」ということらしいんだけど。興味深いでしょ?

まだ分析途中だけど、どうやら小さな子どもは味を表現するときに、記憶に基づく感想が多いことが分かってきました。
この研究が進むと、もしかしたら「ご飯のときにテレビを見ちゃダメ」の理由も「行儀が悪いから」じゃなく、「味覚は記憶と紐づくから」に変わってくるかもしれないよね。

人間にとって、“食べる”行為は社会活動だと思うんです。
私がもし、りこさんをご飯に誘ったとしたら、それは単にお腹が空いてるからだけじゃなく、りこさんのことを知りたい、だから話をしてみたい、ということなんですよね。

論文とは別に、もうすぐ須藤さんが執筆された本が発売されるんですよね?

今までは大人向けの本ばかりでしたが、今回は子ども向けです。幼稚園の年中さんから小一くらいまでが対象になります。
子ども向けの本を書くのは初めてなので、共著の栄養士さん、編集の方、イラストレーターさんも巻き込んで一緒に悩みつつ助け合いつつ(笑)、でも“残すべきもの”を作っている感覚はありますよ。

ちょっと話が変わりますが、2005年に「食育基本法」というのが制定されました。「食育基本法」には、確かに食の安全・安心や栄養については定められてるんだけど、“味わい”については触れられてないんですね。冒頭に「子どもたちが豊かな人間性をはぐくみ、生きる力を身に付けていくため」という一文があるのに。
もちろん、こうしたことは効果測定がすぐに出るようなものでもないし、難しいから触れられないのは仕方ないんだけど。
今回の本は、「なら私たちはそこをやってみよう」という意気込みでつくっています。

何年も前から書きたかった本なので、うれしいですね。書き始めてから1年半くらい経ちますが、ようやく形になりました。
教科書を多く出版している会社から出してもらうのですが、ハンディ版なので子どもが気軽に持ち歩いてくれるといいな、と思ってます。

※編集注:2013年11月に発売されました。
『からだとこころをつくる はじめてのたべものずかん』(創成社)

須藤さんのお話を聞いているとスカッとします。やりたいと思ったことがどんどん形になってますね。最後に、働く女性の一人としてポリシーがあれば聞かせてください。

私の祖父は羽根布団を売る商人だったんですが、仕入れ先をとても大事にする人でした。
「お客さんばかり見ていてはダメ」と祖父が言っていたのをとても強く覚えていて、その言葉に大きな影響を受けている気がします。
つまり“買ってくれる”お客さんはもちろんだけど、“買わせてくれる”仕入れ先への感謝の気持ちも忘れてはいけない、ということです。
私のやりたいことがかなっているのは、自分をアシストしてくれる人たちがいるからです。そういう人たちを大事にしなきゃいけないと、いつも思っています。

Rico’s Eye

お会いするのは3度目、ふたりきりでお話させていただくのは初めての須藤さん。初対面のときに「チャーミングな方だなあ」と一目惚れして、今回のインタビューをお願いしました。たくさんの取材を受けてらっしゃるだけあって、とてもスマートなお話ぶりで、私はといえば、ただ相づちを打って楽しんでいるうちに時間が終了。途中のお気づかいも細やかで、“できる女”ぶりにますます惚れ直しました。

ご自分の信念に従って自由に舵を切るしなやかさと大胆さ、そして華やかな雰囲気が魅力的な女性でした。次はワインを飲みに連れて行ってもらおうっと!

インタビュー/編集 千貫りこ

Photography by Yoko Daikyu

Profile

須藤 海芳子(すどう みほこ)

ワインアドバイザー(社団法人日本ソムリエ協会認定)
シュヴァリエ(シャンパーニュ騎士団)
シュヴァリエ(フランスチーズ騎士の会)
青山学院大学社会情報学研究科博士前期課程在籍中
明治学院大学文学部フランス文学科卒業

五感をつかって飲むワインのテイスティング手法を基に考案された味覚教育の考え方に賛同し、子どもの食教育に携わる。
著書に『シャンパン&スパークリングワイン』(主婦の友社)、『フランスAOCワイン事典』(共著・三省堂)、『美味しいワインの基礎知識』(KKベストセラーズ)ほかがある。
小学生の子育て中。

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