須藤海芳子さん

私が特別アクティブってわけじゃないんですよ(笑)

前回は社会に出てから独立するまでをうかがいましたが、独立前に一度、フランス遊学されてるんですよね?

はい、メルシャンを辞めたあとに7ヶ月ほど。一人旅です。
2ヶ月くらいはホームステイして、リュックを背負ってフランスのアルザス地方やシャンパーニュ地方に行きました。ブルゴーニュでは収穫を体験させてもらったし、ボルドーの5大シャトーも行きましたね。あ、プロヴァンスも!
古巣のメルシャンから連絡を入れてもらっていたおかげで、見学先ではとても良い待遇で迎えていただきました。

当然ながら、現地でのコミュニケーションはフランス語ですよね。

私は仏文学部出身ですが、学生時代は会話よりもテキストを読むことをメインに学んでいたので、そんなに複雑な言葉は話せないんです。ただ単語力はそれなりあったので、買い物するくらいの日常的な会話はなんとかなりました。旅をしたのが田舎だったのもあって、ちょっとフランス語を話すだけで喜んでもらえましたね。

あとワインの専門用語を知ってたので、ワイナリーでも可愛がっていただきました。
このときの旅は、いい思い出しかないなあ!

素晴らしい経験だと思うけど……一人旅で7ヶ月ですか。アクティブですね(笑)

今はとてもできない(笑) 我ながらよくやったと思います。
最近は若い人があんまり海外に行きたがらないと聞きますが、私が20代の頃はバブルの気配がまだ残ってる時期でしょう? 元気な人も多くて、私よりもっと早い時期に海外に出て行った友達もいたの。
だから私が特別アクティブってわけじゃないんですよ(笑)

さて、須藤さんはワイン関連のお仕事だけでなく“味覚教育”にも関わってらっしゃるとか。

はい。味覚教育というのは、ジャック・ピュイゼさんというワイン醸造家の大家、もう80歳すぎのおじいちゃまなんだけど、その方が提唱した教育方法なの。
ワインのテイスティングを行うには、味をロジカルに理解していないといけないんですね。その理論にのっとって、子どもたちの味覚を育てようというわけです。

もともとは、20年くらい前のフランスで「子どもの味覚が鈍ってきているんじゃないか」ということが問題になったのがきっかけで始まりました。フランスといえば美食の国。確かに、ゆゆしき事態ですよね。
そんな背景もあって、今では8割を超すフランス人が味覚教育を知っています。毎年10月に開催される「La Semaine du Goût(味覚の一週間)」は国家予算もつくほどの大イベントなんですよ。
期間中は、あのピエール・エルメなどの有名パティシエや一流の料理人が、学校などに出向いて味覚に関するレッスンを行います。

へえー! そんなイベントがあるとは、ぜんぜん知りませんでした!

日本でも、たとえば旅館経営などで有名な「星野リゾート」の梶川俊一さんが、一部に日本独自のやり方を取り入れつつ、熱心に味覚教育に取り組んでいらっしゃっています。こうした活動などを通して、少しずつ日本に浸透しつつある状況ですね。

私自身も、札幌三越さんで開催される“食育フェア”の企画をやらせていただきました。あるときはクイーンアリスの石鍋シェフやソムリエの田崎さんなどをお招きしたんです。豪華でしょう?
他にも、ホテルで少人数の子どもを集めて味覚教育を行ったり、保育園や幼稚園に出向くこともあります。

フランスの本家イベント「味覚の一週間」も、3年前からは日本でも開催されてるんですよ。この期間、私は渋谷区の小学校で家庭科の授業の時間に、味覚の授業をあてさせていただいてます。

味覚教育、私も受けたいです。子どもだけのものなんですか?

あああ、そうなんです。ごめんね(笑)
味覚の授業は、子ども向けのものなんです。
諸説あるんだけど、味を感じるための味蕾(みらい)は成長とともに減っていくので、味蕾の数が多い敏感な時期に学んでもらおうということで。
重要なのは、味に対する固定観念がついてしまう前に、“質の高い味”に触れて鋭敏になることなの。

基本味は5種類あります。
“甘味”、“酸味”、“塩味”、“苦味”、そして“うま味”。
うま味は難しいので、子どもたちには他の4味を感じ取ってもらいます。酢をなめたり、カカオマスの多いチョコレートをかじってもらって「苦い!」とビックリさせたりね(笑)
“食”って、あまりに当たり前に存在しているでしょう? ふだんは考えたこともないことに目を向けるきっかけになるので、子どもたちはとても喜んでくれますね。

それでは、大人が喜ぶ情報もお願いします。いきなりですが、今の時期においしいシャンパンを教えてください!

はい了解(笑)
シャンパンに使われるぶどうは、シャルドネやピノ・ノワール、ピノ・ムニエという品種です。例外も少しあるけどね。

シャルドネは白ぶどうなんだけど、この比率が高いと酸味が主体でキレ味がよくなります。夏の間はこういう味を「おいしい」と感じる人が多いと思います。
一方、秋はピノ・ノワールなどの黒ぶどうの比率が高いもの、コクがあってしっかりした味の方がオススメ。ですから、ワイン専門店などで「黒ぶどうの比率が高いもの」とリクエストすると、きっと秋にピッタリのおいしいシャンパンを購入できますよ。

秋らしいシャンパンには、シャンピニオンなどの茸をバターでソテーしたり、パテやリエットに合わせてくださいね。

インタビュー/編集 千貫りこ

Photography by Yoko Daikyu

Profile

須藤 海芳子(すどう みほこ)

ワインアドバイザー(社団法人日本ソムリエ協会認定)
シュヴァリエ(シャンパーニュ騎士団)
シュヴァリエ(フランスチーズ騎士の会)
青山学院大学社会情報学研究科博士前期課程在籍中
明治学院大学文学部フランス文学科卒業

五感をつかって飲むワインのテイスティング手法を基に考案された味覚教育の考え方に賛同し、子どもの食教育に携わる。
著書に『シャンパン&スパークリングワイン』(主婦の友社)、『フランスAOCワイン事典』(共著・三省堂)、『美味しいワインの基礎知識』(KKベストセラーズ)ほかがある。
小学生の子育て中。

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