話題になったらすかさず「できるよ!」って言うんです(笑)
こもりさんのセミナーで取り上げるテーマは、ざっくり言うと“新しいワークフローの提案”で合っていますか?
ワークフローの提案であり、お金もうけの考え方かな。
講演依頼がある場合はツールや技術的な話にフォーカスしがちだけど、当の本人はどちらかというとビジネスにも絡む話をしてるつもりです。
これだけ不景気と言われる中、当然ながらWebサイト制作の予算が削られる可能性もある。
だからといってあからさまにクオリティを下げることはできないよね。じゃあどうしたらいいかというと、掛かる時間を削るのが真っ先にできることかな、と。
他で代用できるものを探したり、これまで手動でやってたことを自動化したり。
たとえば、これまで3日かかっていた作業を1日で終わらせることができれば、残り2日をコンテンツの価値やクオリティを上げる時間にあてられます。それがゆくゆくは自分たちの付加価値になるかもしれない。
効率化のための手法を具体的に教えていただけますか?
そうだな……。たとえばWebサーバ。
サーバを準備するとなると、ホスティング業者を探したり、契約にあたってクライアント側で稟議をとおしてもらったりしますよね。そういうプロセスを経なければGoできないのって、時間の無駄だと思うんです。
いずれにしても立ち上げることが確定しているのなら、制作者があらかじめ契約したサーバの無料枠を使ってひとまずサイトを立ち上げることにすれば、15分もあれば手続きが終わります。いまどきはサーバ環境をつくるにしても、そのサイトにピッタリ合った環境を短時間で用意できる。
さらに言えば、たとえば1日あたり100円、月3,000円でサーバを代行管理すれば、取引先が増えるごとに毎月ちょっとした固定収入が見込めますよね。
制作者は、手を動かさずに収入を得る方法も考えた方がいいと思います。
サイトの制作手法で言うと、どんなサイトにもCMSが必要かといったら、そうとも限らないでしょ?
かといって、たった数ページでも手動で作るか、といったらそれはそれで更新含め手間がかかる。なら、「Static Site Generator」と呼ばれるシステムを利用して構築した方がいいかもしれない。
もっと早く、もっと簡単にサイトをつくるために、適材適所で道具を選ぶことが大事なんです。
私もこもりさんのセミナーに何度か参加しましたが、「効率化のためには“デザイナー”や“コーダー”の職域を飛び越える必要があるんだな」と感じました。
分業してもいいと思いますよ。
ただ、デザイナーとエンジニアの間で話が全く通じないと、コミュニケーションコストがかさみますよね。職域にこだわらず、お互いに垣根を低くしたらいいのになあと思います。
ここ最近は、サイトひとつ作るにしても作業を効率化するにしても、これまで以上に広範な知識が必要になってるのが事実なんだよね。いっこのスキルだけじゃすぐ壁にぶつかるので、自分でできないことを教えあったり、互いに補完できる関係を作っておくといいのかな。
私自身はエンジニア寄りなので、デザインの領域に踏みこむのは勇気がいります。
そういう風に言う方はたくさんいますが、難しくはないですよ。
だって、ふだんから見てるじゃん。Webサイトとか街の看板とか広告とか(笑)
まずは目に映るものをマネすればいいんですよ。マネしているうちにセオリーが見つかるし、本屋さんに行けばデザインを教えてくれる本もいっぱいある。
「ん?」と感じるデザインって、ほとんどの場合は情報整理ができてないんですよ。
仮にポップ体フォント(編集注:2007以前のOffice製品にバンドルされていたフォントで、「ダサい」と評されることが多い)を使っていたとしても(笑)、情報整理ができていればメリハリがあってきちんと見えるデザインになるはずです。ポップ体が悪いわけじゃない。
そういう意味では、デザインはコーダーさんの方が得意かもしれないよね。
そもそも、日本のWebデザインって言語・文化的な背景があるのかどうか……ある意味特殊だと思います。
「余白があるともったいない!」とでも言うように、装飾過多だし詰まりすぎ(笑)
情報を詰め込みすぎるとページを表示するにも時間がかかるし、どこ読んでいいのか押していいのかもわからないし、あんまりいいことがないと思う。少しは見る側・使う側の立場に立たないと。
制作するサイトに類似したサイトを研究した結果なのかもしれないけど、「本当にそれがあるべき姿なのか?」ってとこが抜けてるというか。
こもりさんは海外の動向をしっかりチェックしてらっしゃいますね。
そうですね。海の向こうを見ていると、日本の制作者のやっていることは一部の人たちを除いて“周回遅れ”どころじゃないことが分かります。もちろん、何でも海外のマネすればいいわけじゃない。最先端がすべてでもないんですけど。
たまに僕のことを“最先端”と言ってくださる方がいますが、実は僕は海外の最先端の技術には手をつけていません。新しい技術が生まれて、最初の波が落ち着いたところで手をつけるんです。
つまり、この時点ですでに僕が“周回遅れ”なんですね。僕はそれを自分の中で消化してから発信するわけだから、その情報を参考にしている人たちは、2、3周遅れてることになる。
でも、日本ではそれでも十分なんですよ。まだブルーオーシャンが広がってる状態だから。
せめて“3周遅れ”で追いついておけば、他にできる人がいないんだから、その知識や技術を使って単価が高い仕事を引き受けられますよね。
でも多くの人はすっかり畑が食い尽くされてからその技術の存在を知り、習得する。そうすると「仕事をいっぱい請けるぞ!」と意気込んだところで、すでにどこもやっているから他社との差別化が難しくなる。
作り上げるモノがよほど素晴らしくないかぎり、時間で無理するか、単価を引き下げるしかないんじゃないかな。
海外に目を向けること、学習コストを恐れず新技術を身につける努力は大切だと思います。
僕は常に海外から情報収集して“コソ練”してます。
で、半年くらい経って日本で話題になったらすかさず「できるよ!」って言うんです(笑)
インタビュー/編集 千貫りこ
Photography by Sivacchi